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家事シェア研究家・三木智有さんと考える、家族がもっと自由になる「シェア」のはじめ方 【前編】わが家に合うスタイルを知る
ここ数年よく耳にするようになった「家事シェア」という言葉。
くらしのあれこれを自分ひとりで抱えこまず、家族や誰かとシェアすることで、心地よくくらしていくための提案です。今回はそのはじめ方について、家事シェア研究家の三木智有さんと、Yohanaガイドのさやかさんが対談します。
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「くらしのリサーチ、頼れる味方」では、子育て世代の "知りたい" に答えるさまざまなトピックをご紹介。その分野にまつわる専門家と、Yohanaスタッフとの対談を通じて、くらしに役立つヒントをお届けします。
今回のテーマは「家事シェアのはじめ方」。家事をはじめくらしの中にあるさまざまなTo-doを誰かとシェアすることのメリット、その先にある理想の家庭のかたちを、専門家の三木さんと、Yohanaガイドのさやかさんがお話しします。
【PROFILE】
三木智有(みき ともあり)
家事シェア研究家・NPO法人tadaima!代表。2011年より日本で唯一の家事シェア研究家として活動。数々のテレビ・ラジオ番組に出演して家事シェアの大切さを発信している。
さやか
Yohanaのガイド。お客さまのくらしの状況やお悩みを聞き出し、中長期的にサポートする。どのようなリサーチが必要かスペシャリストへ繋ぐ橋渡しの役割も担っている。
「家事シェア」はなぜ必要?
ーーーここ数年で認知が上がった「家事シェア」という言葉を生み出したのが三木さん。そもそもどんなきっかけで、この考え方を伝えはじめたのでしょうか?
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三木さん(以下、三木):
活動をはじめたのは今から15年くらい前、当時はまだ家庭内でシェアするという考え方が一般的でなく、女性の家事負担が圧倒的に多い時代でした。
家事を分担するという概念はありましたが、僕は「分担」という言葉に「家族の誰かひとりに家事担当がいて、それを他の家族に手渡していく」というようなニュアンスに違和感を抱いていました。家事や育児はそもそも皆が共通して共有するべきくらしの一部。だから「シェアする」という表現で広めていくべきではないかと考えて、家事シェアを提案してきました。
ワークライフバランスの考え方が浸透した現代は、男性の育休取得率も上がり、少しずつ家庭に関わる時間が増えてきましたよね。その中でこれからはただ時間を作るだけではなく、具体的にどう関わるかが次のステップとして大事だと。そのために家事シェアを伝える意味があると考えています。
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さやかさん(以下、さやか):
子育て世代を取り巻く環境は十数年前に比べるとだいぶ改善されてきましたね。ただそれでも、負担を感じている家庭は多いと、日頃お客さまと接しながらも感じます。
私たちが「Yohana」というサービスをはじめたのも、代表の松岡が、コロナ禍に自宅で家族と過ごす中で、4人の子どもを育てる母として、妻として、高齢の両親を介護する娘として、くらしていく上でのタスクの多さに難しさを感じたことがきっかけです。
共働き世代が増え、くらしと仕事の両方で、私たちはさまざまな役割とタスクを抱えています。個人に対する負担は増える一方で、核家族化がすすみ、それを誰かにシェアすることはなかなか難しくなっています。物理的な頼みづらさだけでなく、そもそも何をシェアすべきか、どうシェアするべきなのかもわからないという方も多いです。
そういったお客さまをサポートし、くらしのあらゆる困りごとをお手伝いする「シェア先」としてYohanaがあります。サービスをはじめて2年半が経ちましたが、年々増えているお客さまの数や継続率からも需要を感じています。
どこから「シェア」をはじめる?
夫婦で家庭に関わる時間はひと昔前より増え、加えてYohanaのような頼れるサービスも生まれた今、自分だけで抱え込まずにどう「シェア」していくか。三木さんに伺います。
シェアのかたちは4パターン。まずはわが家に合うスタイルを知ることから
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三木:
一口に「シェアをする」と言っても、ただやみくもに家事を分け合うだけではうまくいかないことも。夫婦の関係性や、くらしと仕事のバランスなど、家庭の状況によって、ベストなシェアの仕方は変わります。著書でもご紹介しましたが、私はシェアの方法に大きく4つのスタイルがあると考えています。
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わが家がどのスタイルであるのかを知ることは、無理のないシェアの仕方を探るヒントになりますし、同時に陥りやすい失敗を把握できることにもなります。このチャート図を参考に、どの型にあてはまるかぜひ考えてみてください。
①ひとりがメインで指示を出す「シュフ型」
家庭内に "シュフ(主婦、主夫)" 的な役割を担う方がいて、その人がメインで家事を回しながら、「これお願い」「あれお願い」と家事を振り分けていくのが「シュフ型」です。
ひとりがメインで担うというのは、シェアの概念では偏りがあるように感じられるかもしれませんが、それで家庭がスムーズに回っているのならOKです。ただ、この型では指示を出す人、出される人ができるだけストレスを感じずに運用できるよう、声のかけ方に気配りが必要です。
たとえば相手が何かをやっている時に頼みづらい、逆に自分が何かをやっている時に家事をお願いされるのはモヤっとする、というようなことが生じないように、お互いに頼む・頼まれるタイミングを決めておくことも一案です。
「休日の朝ごはんのあとは食器洗いをお願いね」とする時間も決めた上で担当を振り分けることで、頼まれる側も心づもりができ、頼む側もその都度「今お願いしていいかな」と悩む必要がなくなります。
②それぞれに家事の役割が決まっている「担当型」
料理はママ、食器洗いはパパ、というように特定の家事の分担が決まっているパターン。家事に得意不得意があったり、共働きで家事に関わる時間の余裕が同等な家庭にはこのスタイルがおすすめです。
ここで起きがちなのは、担当の家事が決まっているはずなのに、言わないとやってくれない、というケース。それは結局、どちらかが声をかけることで回っている状態なので、僕は「シュフ型崩れ」と呼んでいます。
たとえば食器洗い担当の夫が、食後なかなか動かずにテレビを見ていたら、妻はイライラしてしまいますよね。ただそこで「いつやるの?」とは聞かないのが大事。本人はそろそろやるつもりだったかもしれず、先に注意を受けるとやる気が削がれ、ぶつかるリスクになります。
ここでも大切なのは、分担する家事に時間を決めること。「食後は◯分以内に食器洗いをする」など、具体的な締切を作った上でシェアできれば、そうしたいさかいがなくなります。
③シュフと担当を掛け合わせた「ハイブリッド型」
誰かひとりがメインで家事を回すシュフ型をベースに、ゴミ出しとお風呂掃除はもう一人がやるなど、部分的な担当が決まっているスタイルです。
初めからハイブリッド型に落ち着くというよりは、シュフ型、担当型を試してみて、心地よい形をさぐる上で折衷案のハイブリッド型になるというケースが多いように感じます。なのでまずはシュフ型、担当型のどちらかしっくりくる方で回してみることをおすすめします。
運用していく上では、先の2つと同様に、個々の家事に時間と締切を決めながら進めていけるとスムーズです。
④それぞれが自主的に動く「自立型」
気づいたときに気づいた方が自主的に家事を進めることで、うまく回っているタイプが自立型。おそらく数としては少ないですが、日々意識せずとも自然に家事が進んでいるなと感じるならばこのスタイルでしょう。
ただ気を付けるべきなのは、片方が自立型だと感じていても、実はもう片方はそうは思っていないというような認識の差があること。
自立型は「気づいたベースですすめる」という曖昧な基準なので、実はいつも先に気づいた方がモヤモヤしている、といったことが起こりかねません。モヤモヤが生じたタイミングで、別のスタイルに切り替えてみるなど、無理なく見直していくことが大事です。
さやか:
お話を聞いていて、わが家がどのスタイルなのかは、夫婦間でも認識の差があるかもしれないと感じました。
三木:
認識の齟齬は必ず生まれると思います。ただ、大切なのはそれを擦り合わせるきっかけを作ることです。わが家はどのスタイルがいいだろう? と夫婦でコミュニケーションをとり、考えるきっかけとして、この型を活用していただけたら嬉しいですね。
さやか:
対話をする機会は、やはりとても大事ですね。私たちもお客さまと接する際、「ガイドコール」というシステムをまず最初に取り入れていて、お困りごとのご依頼を受ける前に、家庭の状況や家事に対する思いなど、じっくりヒアリングさせていただく時間を設けています。
自分以外の誰かに話してみることで、俯瞰して自分の状況を見られ、こんなことに悩んでいたんだ! と気付くケースもあります。
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三木:
パートナーだけでなく、Yohanaさんのような他者に話すことで見えてくるものはありそうですね。それを機に自己整理ができると、結果として夫婦間でのシェアもしやすくなるのではないでしょうか。
さやか:
そう思います。私もガイドコールをしていてとても嬉しく感じる瞬間が、お客さまから「家事について夫婦で話をする機会が増えました」というご感想をいただくことで……その気づきにつながる一歩になれているのだと思うと、やりがいを感じます。
シェアする家事をどう選ぶ?
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三木:
「シェアの仕方」が決まってはじめて、シェアできる家事を考えていきます。そうすることで、ただ目の前の家事をシェアするよりも運用がスムーズになります。
どんな家事をシェアするかですが、よく陥りがちなのは、とりあえず頼みやすい「ゴミ出し」のような目先の家事からシェアしてしまうこと。ただ、そういう家事をシェアしても実際のくらしの負担は変わらないことの方が多いですよね。
僕がよくアドバイスをするのは、今自分が最もモヤモヤを感じている、クリティカルな部分こそまずはシェアすべきだということ。それこそが本質的な助けになると感じます。
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さやか:
ガイドコールでも、お客さまが負担を感じている家事についてお話を聞いていくのですが、自分が何にモヤモヤしているのかは、対話の中から気付いていくことが多いです。
たとえば「料理が負担」というお悩みはよく寄せられますが、負担を感じるのは献立を考えることなのか、食材の買い物なのか、作ることなのか、それぞれによって解決策は変わります。すべてを手放したいという方には家事代行サービスを依頼する方法もありますが、たとえば買い物が負担ならばネットスーパーでカゴに入れるところまでお手伝いができる、など、部分的なサポートも可能です。自分が負担に感じている部分を把握することは、効果的にシェアするための第一歩だと感じています。
三木:
さやかさんのお話に近いですが、僕は「ひとつの家事を因数分解して考えてみましょう」と伝えています。たとえばストレスを感じているのが「掃除」ならば、具体的にどんな行程が必要か、ステップを箇条で出してみます。まずは散らかったものを片付けること、床の掃き掃除、拭き掃除、掃除機、ドライシート掛け、どかした家具を戻して配置するなど、細かな工程がいろいろとでてきます。
因数分解のメリットは、行程が視覚化されることで、こだわりたい部分とそうでない部分の棲み分けが明確になり、手放せるものを手放しやすくなります。
ここまで、「家事シェア」のメリット、自分だけで抱え込まず効果的なシェアの方法を探るためのヒントについて三木さんに伺いました。
後編では、家事シェアの本質的な目的を考え、その先にある理想の家庭のかたちについてお話します。
( ▶【後編】ゴールはどこにある? は、こちら へ)
Yohanaなら「家事の困りごと」をさまざまな入り口からサポートいたします
・家事をスムーズに進めるための道具やアイデアのリサーチ。
・家事代行を頼めるサービスの提案。
・どこから頼む? 家庭に合わせた家事シェアの方法相談。
ご家庭の状況に合わせてお手伝いします。
▶もっとYohanaについて知りたい方は、
こんなとき、Yohanaに頼って!【基本編】をご覧ください。
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