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フリーアナウンサー・絵本専門士 吉田明世さんと考える子どものこころを育てる「絵本」の選び方

「くらしのリサーチ、頼れる味方」では、子育て世代の ”知りたい” に答えるさまざまなトピックをご紹介。その分野にまつわる専門家と、Yohanaのスペシャリストとの対談を通じて、くらしに役立つヒントをお届けします。
今回のテーマは「子どもの本・絵本」。絵本専門士の資格を持つフリーアナウンサーの吉田明世さんと、Yohanaスペシャリストのきむさんが対談。選ぶ基準や、おすすめの絵本についてお話します。

写真左から:吉田明世さん、きむさん

【PROFILE】
吉田明世(よしだあきよ)
元TBSアナウンサー。2児の母であり、絵本専門士と保育士の資格を持つ。現在はフリーアナウンサーとしてテレビ、ラジオ、イベントでの司会、モデルなど多彩に活躍する。2022年12月に初めての絵本『はやくちよこれいと』(株式会社インプレス)を出版。

『はやくちよこれいと』(株式会社インプレス)

きむ
Yohanaのスペシャリスト。お客さまの要望や相談に合わせて、さまざまな調べごとやサポート、予約・手配などを手がける。絵本や本にまつわるリサーチの経験も豊富。


無数の絵本がある時代、どんな一冊を選べばいい?

きむさん:
吉田さんはお子さんの妊娠をきっかけに「絵本専門士」の資格を取得されたんですよね。一体どんな資格なのでしょうか?

吉田さん:
絵本にまつわる知識や技術を身につけた、いわば絵本のプロフェッショナルの資格です。今の時代は絵本が無数にあって、子どもにどれを選べばいいのかわからないという声もよく聞きます。絵本専門士は、読み聞かせやワークショップを通じて絵本の魅力を伝え、絵本との出会いや、身近に楽しんでもらうきっかけを提案しています。

きむさん:
同じようなお悩みは、お客さまからも多く寄せられますね。「おすすめの絵本を教えてほしい」というご依頼を頂いて、私も月に数十冊の絵本をセレクトしています。

吉田さん:
そんなに沢山! すごいですね。選ぶ上で基準にしていることは何かありますか?

きむさん:
一つのポイントとして、季節に沿った題材を選ぶことです。夏休みのお子さんに向けては、やはり夏がテーマの本をすすめるとより興味を持ってもらえます。その中で年齢に応じては、「平和の大切さ」についてふれた本を選ぶなど、メッセージ性も意識しています。

それから、できるだけひとつの価値観だけではなく、いろいろな価値観を感じられるような本をおすすめすることも。

例えばスポーツが好きなお子さんには、スポーツがテーマの本はもちろん喜ばれますが、それ以外の得意分野をもつ子の価値観も学べるように、絵を描くのが得意な子も出てくる物語を選んだり。いくつかの視点が入った本をすすめることで、新しい世界を広げるきっかけになればと考えています。

価値観を広げるという意味では、依頼をいただいたご家庭のお子さんが兄弟や姉妹ならば、お互いの理解が深まる本を取り入れることもあります。お姉ちゃんには妹がテーマの絵本を、妹にはお姉ちゃんが出てくる本をおすすめして、違う立場の相手を認め合う気持ちが、絵本を通じて芽生えたら、という思いです。

吉田さん:
素敵な視点ですね。自分ひとりで選ぶと偏った価値観になりがちなので、、Yohanaのサービスのように第三者におすすめしてもらうのは、新しい気づきをもらえる良い機会だと思います。

私自身も絵本を勉強してきた身ではありますが、姉や保育園の友人ママから教わって初めて知った本もたくさんあります。飲食店を選ぶとき、そこに行った人の口コミが参考になるように、やはり本も読んだ人の声が一番参考になりますよね

絵本に「何歳から」はあっても「何歳まで」はない

きむさん:
そうですね。私も本を選ぶとき、絵本ナビのようなwebサイトや、XなどのSNSにあがる口コミを参考にしています。リアルな感想には、その本から得られる具体的な学びや気づきが詰まっていますよね。書店は本そのものを見て選べる良さがありますが、読者の感想が集められるのは、ネットならではの良さだと思います。

吉田さんは、絵本を選ぶ上でどんなことを意識されていますか?

吉田さん:
例えば、できるだけ「絵」を見て本を選ぶということでしょうか。

大人って文字が読めるので、絵本の内容をつい文字(ストーリー)の要素から判断しがち。でも、子どもはどちらかといえば絵の方に目を向けています。

以前『ママだいすき』(作:まど・みちお、絵:ましませつこ / こぐま社)という、いろんな動物の親子が出てくる本を娘に読み聞かせしたことがあって。文字量で言えば一瞬で読み終わってしまうくらい短い本なのですが、娘がふと「この豚ちゃん、転がっちゃっておっぱい飲めてないね」って言ったんです。

それは私自身が気づいていなかった視点で、この絵本はこういう物語、と大人目線で理解してはいけないなと反省しました。絵本のメインは「絵」であって、そこには文字以上に豊かな物語が詰まっているんですよね

絵本専門士の資格をとる時に教わったのが「絵本には ”から” はあっても ”まで” はない」ということ。何歳からおすすめという絵本はあっても「何歳まで」と上限を引かれることはないんです。この本は幼すぎるかな、と大人の価値観で決めずに、「絵を読む」という視点で見つめ直すと、選び方も変わりそうです。

まずは「絵本って楽しい」と思える入り口づくりから

きむさん:
年齢に上限はないというお話、共感します。私も絵本を読みながら、つい笑ってしまうことがよくあって。絵本って大人でも純粋に楽しめるものだと感じています。
五味太郎さんの『ことわざ絵本』(岩崎書店)という本があるのですが、これも年齢の境なく楽しめる一冊です。私は幼い頃からこの本を読んでいて、何か強いメッセージ性があるわけではないのですが、だからこそフラットに絵を見て楽しめる、心地よい読後感が好きでした。以前この本をお客さまにご紹介したら、その方もこの本を子どもの頃に読んでいて、今はお子さんも読んでいると。時代を越えて愛される本なんだなと実感できて嬉しかったです。

『ことわざ絵本』(作・絵:五味太郎 / 岩崎書店)

吉田さん:
自分が子どもの頃好きだった本をおすすめする
って、シンプルですがとても良い方法だと思います。ベストセラーのように、長年読み継がれてきた本には、それだけの理由が必ずありますから。

絵本にはいくつかのジャンルがあって、五味先生の絵本のように、シンプルに読んでいて楽しいものもあれば、何かのメッセージ性や、しつけ的な観点の本もあります。どれが良い悪いではなく、大切なのはそれらを段階に応じて選ぶこと

絵本を選ぶ一番の目的は「子どもに本を好きになってもらいたい」ということだと思うので、そのきっかけとしては、まずは素直に楽しめるものを選んであげることが大事。そうして入り口を作り、絵本が好きになっていった段階で、少しずつ教育的なもの、メッセージ性のあるものを取り入れて、向き合い方を広げていけたらいいですね。


選び方を伺ったところで、続いては、Yohanaメンバーの子育て家族から実際に寄せられた知りたい本のテーマの中で、特にニーズの高い4つをピックアップ。それぞれに合う絵本を吉田さんにご紹介いただきました。お話を聞きながらきむさんも、これまでに提案してきた本を振り返ります。

暮らしの習慣・ルールが学べる本

写真左:『やさい だいすき』(作・絵:柳原良平 / こぐま社)
写真右:『ルルちゃんのくつした』(作・絵:せなけいこ / 福音館書店)

吉田さん:
せなけいこさんの絵本は、くらしのルールを楽しく伝えてくれるものが多いです。『ルルちゃんのくつした』は、放り投げられた靴下さんが泣いているなど、生き物のように描かれていて感情移入できるお話。実際のくらしでも「ほら、バラバラにしていると靴下さん泣いちゃうよ」と本にならって子どもに声をかけています。

『やさい だいすき』は、だいこん1本、にんじん2本とテンポよく野菜が出てくるのが心地よく、娘も一緒に口ずさんでいます。数の学びにもなりますね。食卓で「今日のごはんにいる野菜はどれだ?」と尋ねると興味を持ってくれて、食べたい気持ちにも繋がるようです。

きむさん:
私は、ヨシタケシンスケさんの『おしっこちょっぴりもれたろう』(PHP研究所)をおすすめしたことがあります。誰にでも経験のあるお漏らしを「恥ずかしい」という感情ではなく、おもしろおかしく表現してくれるので、くすっと笑ってしまうんです。楽しくトイトレを促してくれる1冊です。

友達との付き合い方・気持ちを学べる本

写真左:『きみなんか だいきらいさ』(作:ジャニス・メイ・ユードリー、絵:モーリス・センダック、訳:こだまともこ 訳 / 冨山房)
写真右:『はじめてのおつかい』(作:筒井頼子、絵:林明子 / 福音館書店)

吉田さん:
『はじめてのおつかい』は、初めて1人で買い物に行ったドキドキ感、緊張してうまく声が出せなかったときの悔しさ、頑張ったときの達成感、いろいろな感情が詰まっています。緊張することも、泣きそうになることも、あなただけじゃないよって伝えることで、子どもの自己肯定感を高めてあげられる1冊だと思います。

『きみなんか だいきらいさ』は、親友の男の子二人が大げんかをしてしまう話。クレヨンを貸してくれなかったり、砂を投げてきたり、誰にも経験があるようなささいな理由でけんかが起きて、でも最後にはからりと仲直りするんです。子どもにとっては友達っていいなと思える1冊ですし、大人が読んでも、素直に気持ちを伝え合って仲直りできる子どもの素直さに心動かされます。

多様性が学べる本

写真左:『タンタンタンゴはパパふたり』(作:リチャードソン、ピーター・パーネル、絵:ヘンリー・コール、訳:尾辻かな子、前田和男 / ポット出版)
写真右:『スイミー ちいさなかしこいさかなのはなし』(作:レオ=レオニ、訳:谷川俊太郎 / 好学社)

吉田さん:
レオ=レオニさんの絵本は読んだことのある人も多いと思います。真っ赤な魚の兄弟たちの中で、1匹だけ黒い色で生まれたスイミー。悲しい出来事を乗り越えて、自分の個性を生かし、仲間と一緒に大きな試練を乗り越える様子にはたくさんの学びがあります。「多様性」という言葉が生まれるずっと前から、この本があったのはすごいこと。個性があっていいんだということが、直接的な言葉ではなく、絵やストーリーから伝わります。

『タンタンタンゴはパパふたり』は、ニューヨークのセントラルパーク動物園での実話が元になった話。雄のペンギン2匹がカップルになり、子どもが生まれるストーリーです。価値観のアップデートが必要な現代に、動物という親しみやすい存在を通してそれを自然に伝えていけたらいいのではないかなと思い選びました。

きむさん:
私は『ますだくんのランドセル』(ポプラ社)をおすすめしたいです。主人公のますだくんが赤いランドセルを背負っていて、友達から女の子みたいとからかわれるんですが「そんなことないよ、かっこいいだろ!」と気丈に言い返すシーンが印象的。これを読んで、子どもの頃にこの本に出会いたかった! と思いました。性別に関係なく、自由に好きなものを選んでいいよって背中を押してあげたいですね。

「なぜ、なに?」の好奇心にこたえてくれる本

写真左:『どうして どうして?』(作:トニー・ミトン、絵:ポール・ハワード、訳:アーサー・ビナード / 小学館)
写真右:『しずくのぼうけん』(作:マリア・テルリコフスカ、絵:ボフダン・ブテンコ、訳:うちだ りさこ / 福音館書店)

吉田さん:
『どうして どうして?』は、どうして風は吹くの? どうして太陽は明るいの? と、子どもだからこそ抱くいろいろな疑問に、お母さんがやさしく答えていくお話です。これは大人向けでもあって、忙しいとつい、わからないな〜とやり過ごしてしまいがちですが、子どもの知りたい気持ちにまっすぐ向き合ってあげたいと思えます。

『しずくのぼうけん』は、身近な水がどこから来て、どんな風に巡っているのかを伝えてくれます。壮大な水の冒険に、想像力が掻き立てられる1冊です。

難しいテーマは、絵本にのせて伝える

きむさん:
こうして紹介していただいた中にも知らない本がたくさんあり、刺激になりました。多様性のテーマなど、言葉ではうまく伝えづらいメッセージも、絵本を通すことでこんなにわかりやすく届けられるんですね。

この頃本を選んでいて悩むのが、自分が子どもの頃読んでいた好きな本に、今改めて読み返すと差別的な表現があると感じてしまう時です。例えば肌の色が違う子についての表現や、男の子は青、女の子は赤といった性別による色の指定など。そういった本をどう扱うべきか迷うのですが、吉田さんはどう思われますか?

吉田さん:
表現に対する価値観は、昔より今の方がより敏感になりましたよね。それにより、文章が改訂された本も多いです。ただ、そういった表現をすべて排除するのではなく、あえて取り上げていくのも一案だと思います。

例えば、ママが子どもの頃は男の子は黒いランドセル、女の子は赤いランドセルという決まりがあったけれど、今はどんな色でも選べるんだよ、というふうに。逆にその本をきっかけにして、過去と今の違いや、色々な人がいていいんだという多様性を伝えていけたらいいのではないでしょうか。

「長く愛せる1冊」に出会うために

きむさん:
同じ本でも、伝え方を変えるだけで、子どもの受け取り方が変わりそうですね。その点では読み聞かせも大事なコミュニケーションだと感じます。読み聞かせって、何歳ごろまでしてあげるべきなんでしょうか?

吉田さん:
絵本には「まで」がないと言うように、読み聞かせも、子どもが楽しむならば何歳まででも続けていいと思います。

中にはできるだけたくさんの本を読み聞かせなければ、とプレッシャーに感じる方もいるかもしれませんが、私は1冊の本を繰り返し読むのでも良いと思うんです。

誰にでも少なからず「幼少期の思い出の絵本」があると思うのですが、それは1度きりしか読んでいないものではなく、幼い頃に繰り返し読み聞かせてもらってきたものだと思うんですね。子どもにとって、慣れ親しんだ本を繰り返し読んでもらう経験は安心感に繋がりますし、そんな本の存在は、大人になってから、愛してもらっていたんだな、と親の愛情を振り返るきっかけにもなるかもしれません。

絵本は大人と子どもを繋ぐもの。だから、親子の思い出になるような1冊を、長く一緒に楽しんでいけたらいいですね」

きむさん:
こうして吉田さんにお話を伺って、絵本への理解がさらに深まりました。私もお客さまが長く愛せる1冊に出会えるように、これからも色々な本をおすすめしていきたいと思います。

吉田さん:
私はYohanaのサービスを、書店でもネットでもない、新しい絵本を知る手段だなと感じました。おすすめの絵本を送ってくれるサブスクリプションサービスはありますが、それぞれの悩みや想いに寄り添って、こういう絵本を選びました、と『人』が選んでくれているというのが伝わることは嬉しいですよね。実際きむさんにお会いして、こんな風に一生懸命に考えながら提案してくれる人がいるなら、ぜひ頼んでみたいと思いました。Yohanaのサービスを通じて、絵本が好きになる子どもがもっと増えてくれたら私も嬉しいです。

Yohanaなら、「本・絵本選び」の先までサポートいたします

・オンライン書店などでご希望の本を購入する。
・近隣の図書館でご希望の本を探し、予約する。
・特定のサブスクリプションサービスの中から適した本を選ぶ。
本・絵本選びから、予約や購入、くらしへの取り入れ方までご家庭の状況に合わせてお手伝いします。

▶︎読書を通してくらしを豊かにするお手伝いについては、「読書の習慣づくりのTo-do」をご覧ください。

▶︎もっとYohanaについて知りたい方は、
こんなとき、Yohanaに頼って!【基本編】」をご覧ください。